第22回「目からウロコがはぎ取れる!経営に役立つポイント」

〜財務体質を強くするバランスシート対策〜

こんにちは! エースラボの布川昭文と申します。

普段は「出張経理課長」として、契約企業様の日々の経理処理や毎月の状態把握に欠かせない月次試算表作成のお手伝い、さらには資金繰りや、資金調達に関わる支援業務を行っております。

「経理業務に直接タッチしない社長さんでもここだけは知っておいてほしい」

「ここを押さえておくと経営が楽になりますよ」

というところをピックアップし、なるだけわかりやすく、簡略にお伝えしていきたいと思います。

前回に引き続き、財務を強くするバランスシート対策の「負債の最適化」「流動性の確保」「資産の効率運用」についてお届けしたいと思います。

繰り返しになりますが、バランスシートを重視するということは、企業が資産と負債の管理を慎重に行い、財務の健全性を保つために戦略的な意思決定を行うことです。
まずは負債の最適化について触れたいと思います。

負債の最適化

「負債の最適化」とは、企業や個人が負債を効率的に管理し、資本コストを抑えつつ利益やキャッシュフローを最大化するための戦略です。実現化には以下のような取組みが考えられます。

①負債の見直しと整理
・負債の全体把握:負債の総額、返済期間、利息率、返済スケジュールなどを確認し、現在の負債の状況を把握します。
・高金利負債の返済優先度設定:高金利負債は利息負担が重いため、早期返済を検討します。

②負債の借り換え
・金利下げの交渉:現在の負債がある銀行や金融機関に対し、金利引き下げを交渉することも選択肢です。
・低金利への借り換え:低金利の金融機関や融資商品を探し、現在の負債を低金利負債に借り換えます。これにより、支払う利息総額が減少し、月々の返済負担も軽減できます。

③資本構成の見直し
・資本と負債のバランス:負債と自己資本のバランスを考慮し、適切なレバレッジを保つことで、財務体質の強化を図ります。特に、負債が多すぎると財務リスクが増し、経済的に厳しい状況で耐える力が弱くなるため、バランスの見直しが重要です。
・資本増強の検討:必要に応じて、株式発行や自己資本の増強を検討します。これにより、自己資本比率を高め、負債依存度を低くすることで、財務の健全性を向上させます。

④キャッシュフロー管理
・キャッシュフローの改善:キャッシュフローが安定していないと、負債返済が厳しくなるため、キャッシュフローの安定化が重要です。売掛金の回収を早める、在庫を最適化するなどの工夫により、キャッシュフローを改善します。
・緊急時のキャッシュリザーブの確保:資金繰りが急に厳しくなった場合に備えて、キャッシュリザーブ(預金や流動性の高い資産)を確保しておくことも重要です。

⑤リスク管理とヘッジ手段の活用
・金利リスク管理:変動金利での借り入れがある場合、金利上昇リスクに対する対応を検討します。金利スワップやキャップなどのデリバティブ商品を活用して、金利変動リスクを軽減することができます。

⑥長期的な財務戦略の策定
・返済スケジュールの最適化:事業の収益予測やキャッシュフロー計画に基づき、返済スケジュールを最適化します。返済負担を平準化することで、安定した運営が可能となります。
・投資と負債のバランス:将来の成長のためには投資も必要ですが、過剰な負債を抱えると財務リスクが高まります。負債による投資効果とリスクをしっかりと分析し、適切なバランスを保ちながら事業の成長を目指します。

負債を単に減らすのではなく、戦略的に管理して活用することが負債の最適化において重要です。
続いて流動性の確保について触れたいと思います。

流動性の確保

「流動性の確保」とは、企業が必要な時に現金や現金同等物を容易に手に入れられる状態を維持することを指します。流動性が確保されていると、突然の支出や緊急時の資金調達にも柔軟に対応でき、安定した財務基盤を保つことができます。以下は、具体的な取り組み方法です。

①キャッシュフロー管理の強化
・キャッシュフロー予測:将来の収入と支出を見積もり、現金不足に陥らないように定期的に予測します。
・売掛金の早期回収:売掛金の回収サイクルを短縮するため、取引先と条件を見直す、早期支払い割引を提供する、電子請求書を利用して迅速な請求を行うなどの対策を講じます。
・在庫の適正化:過剰在庫があるとキャッシュが拘束されるため、在庫管理を強化し、必要以上の在庫を持たないようにします。これにより、キャッシュが確保され、流動性が向上します。

②資金調達手段の多様化
・短期借入金枠の確保:銀行などと融資枠契約を結び、必要な時に迅速に短期借入ができるようにしておきます。
・クレジットラインの活用:信用が確立している場合、銀行とクレジットラインを契約し、必要な時に資金を引き出せるようにします。
・ファクタリングの利用:売掛金をファクタリング会社に売却し、即座に現金を確保する方法です。これにより、売掛金の回収待ち時間を短縮し、キャッシュを増やせます。

③運転資金の効率化
・支払サイクルの最適化:取引先との支払期日を見直し、できるだけ延長して資金を手元に残しておくように交渉します。
・費用管理とコスト削減:不要な支出を見直し、コスト削減に努めます。特に無駄な経費や短期間での支出がある場合は、それを削減することでキャッシュが確保され、流動性が向上します。
・リース契約の活用:設備や車両などの購入をリースに切り替え、初期コストを抑えることでキャッシュを保持しやすくします。これにより、キャッシュアウトフローが分散され、運転資金が安定します。

④現金同等物の運用
・定期預金の利用:定期預金を利用しながら、解約しやすい短期間のものにすることで、利息収入を得つつ必要時に現金化できるようにします。
・短期金融商品への投資:すぐに現金化できる短期の金融商品(例:短期債券)に投資することで、流動性を確保しつつ収益を上げることができます。
・現金同等物のポートフォリオ構築:リスクを分散するため、複数の流動性の高い資産をポートフォリオとして保有し、必要時に売却できるようにしておきます。

⑤事業運営上のリスク管理
・流動性リスクのモニタリング:定期的に財務状況を確認し、特に流動性の指標(例:流動比率、当座比率)を監視します。これにより、流動性が低下しないように常に注意を払えます。
・分散化した収益源の確保:特定の取引先や収益源に依存せず、複数の収益源を持つようにします。収入が偏ると一時的な資金不足が発生しやすいため、分散することで安定性が向上します。

⑥緊急時の資金調達手段の確保
・社債の発行や株式発行の準備:株式発行や社債発行の計画を事前に立て、緊急時に活用できるようにしておくと資金調達の迅速化につながります。・財務予備資金の設置:緊急時のために財務予備資金を設定し、事業運営に影響を与えない範囲で積み立てておくと良いです。予備資金があれば、突然の支出にも対応できます。

最後は資産の効率的運用についてになります。

資産の効率的運用

「資産の効率的運用」は、企業や個人が保有する資産を最大限に活用し、収益性を高めることを目指すプロセスです。資産の効率的な運用により、安定的なキャッシュフローを確保し、リスクを抑えつつ投資収益を最大化できます。具体的な取り組み方法は以下の通りです。

①資産の現状把握と分析

・資産の棚卸:現金、不動産、機械設備、在庫、金融資産など、保有している資産をリストアップし、それぞれの価値や使用状況を把握します。
・資産のパフォーマンス分析:資産ごとの収益性や運用効率を評価します。特に収益を生まない、または運用コストが高い資産がある場合、その資産の処分や他の投資先への振り替えを検討します。

②資産の収益性向上
・高収益の資産へ再投資:収益性が低い資産を売却し、その資金を高収益の資産へ再投資します。
・資産運用戦略の見直し:株式や債券の配分比率を見直すことで、収益を最大化できるよう資産運用戦略を最適化します。市場の変動や経済状況を踏まえて、運用比率を調整します。

③固定資産の効率化
・設備の稼働率向上:工場や設備などの稼働率を高めるため、メンテナンスのスケジュールを最適化し、ダウンタイムを最小化します。これにより、固定資産の効率性が向上し、収益力が強化されます。
・リース活用による資金効率化:新しい設備を購入する代わりにリースを活用し、初期費用を抑えつつ設備を使用することで、キャッシュアウトフローを平準化し、資金効率を改善します。

④流動資産の運用効率化
・余剰資金の運用:キャッシュや短期の預金が過剰にある場合、金利収入を得られる短期の金融商品(例:定期預金など)で運用します。
・在庫管理の改善:在庫が過剰にあると資金が滞留するため、適正在庫レベルを見直し、在庫回転率を高めます。

⑤長期資産の運用戦略
・長期投資での収益最大化:株式や不動産などの長期保有資産は、安定的なキャッシュフローや資産価値の増加を期待できるため、長期的な視点で運用します。配当のある株式や不動産収益を狙うと、安定的な収入源を確保できます。

⑥税効率を考慮した資産運用
・税制優遇の活用:税制優遇が受けられる制度(例:確定拠出年金やNISAなど)を活用し、節税しながら資産を運用します。

⑦資産運用におけるリスク管理

・損失リスクの抑制:資産運用では、リスク管理が重要です。特定の資産が損失リスクを抱えている場合、損切りルールを設け、損失の拡大を防ぎます。

資産の効率的運用は、単なる収益最大化を目指すだけでなく、安定性やリスク管理も考慮しながら戦略的に行うことが重要です。定期的にポートフォリオの見直しを行い、市場環境や目標に応じて柔軟に運用方針を調整していくことで、長期的に資産を成長させることが可能です。

次回は、「固定費の管理」、「収益性の向上」について触れたいと思います。
お楽しみに!

ABOUT US
布川 昭文
中央大学経済学部卒業後、東証一部上場企業の建設会社に入社。支店経理、本社人事部で勤務。その後、会計事務所、シンクタンクにてスタッフ系業務全般及び調査・研究業務に携わる。シンクタンク時代には流通業の経理担当者向けのセミナー講師を定期的に務めた。また、2005年共著にて「経営計画・利益計画の立て方進め方(ISBN-10:4534039751)」執筆。 2021年 エースラボの理念「中小企業のパワーアシスト」に共感し参画。いままで様々な企業の業務改善に携わる。趣味で合唱をたしなみ、ベートーヴェンの第九をこよなく愛する。週末、ぶらぶらとドライブしながらの温泉巡りをすることもすき。