それはいまを去ること20年前、社長を引き継いだ途端、日本中の建設バブル崩壊に連動して当社も変調をきたしていたころのお話です。
前回書かせていただいた、父親との葛藤、和解の過程で私は業績回復のためにいくつかの策を施しました。
その中の一つが「期末手当」。
もともと、非常に給与水準が低かった当社には昭和40年代後半から不定期で期末手当を出していたようです。
当時のことはさておき、私が入ってから体験したのは、時折景気の良さそうな年度末に社員の方から「こんだけ忙しい思いをしてるんだから考えてくれ」という要請、というか交渉があると、役員が話し合って総額を決め「ほれ」とばかりに渋々払うというものでした。
建設バブルで多少潤っていた時期には支給総額数百万単位で支払われてはいましたが、今調べてみると支払総額と業績との相関がなく、組合活動と言うほどのものではないけど、役員と社員間の「交渉次第」と言う感じだったようです。
そういえば当時は退職願を懐に様々な待遇改善交渉に及ぶ猛者もおりました。まあ本人も辞める気などさらさら無く、まるで歌舞伎のような様式美の世界です(笑)。
私が社長になってすぐ、建設、公共投資バブルの崩壊からお互いそんな余裕もなくなった時、ある雑誌で事前に割合を約束して期末手当を実施している会社の記事を見つけます。
その会社では「三方良し」の精神で予測営業利益の3割を社員に還元しているのだとか。
残りは6割は会社と国(税)で半分こして、残り10%を配当に当てるんだとか。
三方よしはいざしらず、会社から手当を上げる話を先にできて、しかも利益が出なかったら払わなくて良い。
私は早速就任3年目の期初に社員をあつめて、この3割の期末手当を宣言しました。
社員のその時の反応は「ふーーん」といった程度のそこそこ疑わしそうな雰囲気。
「やっぱ だめかあ まあいいや 儲かんなくても1円も損しないわけだし」
と、いつものように無気力気味に新しい期が始まりましたが、終わってみれば260万円の期末手当資金が準備できることになったのです。
当時は受け取り資格がある社員は18人程度(役員と事務員は受給なし)で1人15万円前後を基本給に応じて、その他の事務員さんにも大入り袋を配ることが出来ました。
「意外と効くもんだ」と数年続けましたが、その後は利益も伸びずさほどの効果はなし。
このまま続けてもと、導入5年目に思いっきって総支給額20%のベース分以外を評価によって変動させる方式に切り替えたところから一気にブレイク。
その年度に分配原資はすぐ倍の500万円超え、そこから利益は順調に増え続け、4年目にはとうとう期末手当の総支給額は5.7倍の1500万円を超えることになったのです。
ほんとケチくさいけど、正直払うのが惜しい気持ちになったことを覚えています。
この時は平均80万円、評価によっては100万円超えの受給者が出現。
おかげさまで経常利益も4000万円を越え、利益率は夢のまた夢だった5%をマーク出来ました。
もちろん、期末手当の他にもプロセスマネジメントや倫理経営などさまざまな策が複合してでた成果だとは思いますが、現在の当社の財務的な土台は、この頃の利益にささえられていると言っても過言ではないと思います。
さて、会社がほぼノーリスクで業績を伸ばせる評価付期末手当制度、体験上結構な副作用もあるので注意が必要です。下記の副作用に気をつけ用法用量を守って正しくお使いいただくことをオススメします。
副作用1,社員の金遣いが荒くなる
ベースとなる月給や定期賞与が低いままスタートさせたこの制度、私は毎月の生活支出の助けになる、と勝手にそう思っていましたが、そうはなりませんでした。
一気に数十万単位のお金が入った社員のなかには、それを一時的な消費やギャンブル資金にしてしまうものも現れます。
高価な腕時計、二台めのバイクなどなど、、典型的なお金の使い方がわからない人の行動をとってしまったり、パチンコなどの遊興費に使ってしまって更にお金に困ってしまったり、、いやはや思ったとおりにはならないものです。
副作用2,お金で動く社員の出現
最初の頃は、えびす顔で私のところまでやって来て「ありがとうございます!」なんて言っていた社員も何年かするとこれが当たり前になってきます。
年によって思ったような手当が出ないことがあると、急激にモチベーションが下がる社員が現れだします。
また、自分さえ良ければ的な行動を取る社員も現れて、本来会社はチーム戦なのに、エゴイステックな行動を自ら良しとするベテランが跋扈する、三流プロスポーツチームみたいな雰囲気も漂ってきました。
まあ、「地が出た」ということでしょうが、粗すぎるサンドペーパーで磨きすぎて地金を出させてしまったこちらの考え方・やり方にも問題があったと言わざるを得ません。
現在は、基礎となる給与制度の改革で、基本給を上げていくと同時に少しづつ期末手当の割合を減らしていくことや、チームビルディング的な考えを評価するなど、少しづつ改革を進めています。
とはいえ、無気力で傷のなめ合いばかりで、表面的な和やかさあふれる過去のことを考えると、ウチの社員もずいぶんたくましくなったなぁと思います。
そもそも前のままだったら、いま会社が存続しているかどうかも分かりませんからね。
次回は、「売上を追わずに売上を上げる法」について書かせていただきます。もちろん机上の空論ではなく実体験をしっかりお伝えしていきます。