経営やってみたラボ、16 経営のアップデート

会社の代表になってから25年目、私自身が会社を経営する上での価値感も、時代や会社の成熟、自分自身の変化とともに変わりました。

今回はご参考までに私の経営に関する価値観の変遷を振り返ってみたいと思います。

 

1996年〜価値観1「赤字は悪」

父から引き継いだ電気設備会社を引き継いだ途端の建設バブル崩壊で、剰余金の半分を失う赤字を出すことになり、まずは立て直しが急務となりました。

人を減らし、経費を削り、減価償却もままならない状態で5年間、百万単位でコツコツと黒字を積み増す努力を続けたその頃の価値感は、「頭を下げてなんでも受注」「何かありましたらよろしくお願いします」とばかりどんな仕事でも文句を言わず引き受け、なんとか凌いでいたわけです。

2000年〜価値観2「粗利率」

そんな暮らしに(?)疲れ果て、たどり着いた私の次なる価値観は「粗利率」。

売上の向上を目指さず割の良い仕事だけを選び、仕入先や同業者の困惑には目もくれず、我と我が社の安全と安定だけをがむしゃらに求めていました。

社員の利益意識を向上させようと、2003年頃から社員に対する手厚い「期末手当」を武器にやせ馬に鞭打ち続けた結果、やっと営業利益のケタが一つ増えだしました。

2005年〜価値観3「調査会社の評点」

経営状態が良くなり始めたころ、地元の社長さんたちとのお付き合いも増え始め、私はだんだんと「会社の評価」に目が行きだしました。

一人前に「良い会社、良い社長」と思われたい。

マズローが言うところの「承認欲求」の萌芽とでも言うのでしょうか?

一番わかりやすく目指しやすかったのが「調査会社の評点」これが当時の価値観の中心でした。

利益を増やすことはもちろん、これまでの成行き経営でいびつだったバランスシートを整え、金融機関からの評価も少しずつアップさせていきました。

 

2008年〜価値観4「バランスシート(貸借対照表)」

そうはいっても評点には市場規模や業態でガラスの天井が存在します。

当社もあるところから評点が頭打ちになりだしました。

しかし評点を価値観にしたことで、いつしか私の「PL(損益計算書)脳」は徐々に「BS(バランスシート)脳」に切り替わっていました。

BSはPLの表紙ではなく、BSこそが会社の成績表。だからBSの中身を本物にしないと決算書が単なる「お飾り」になってしまうと考えたのです。

同時に私はBSのスリム化にも着手します。

長短のバランスをととのえ、価値のない在庫を除却し、受取手形の割引をやめ、支払いを現金に変え(そのぶん借り入れは増やしましたが)、債権回収期間の短縮を行いました。

当時は「キャッシュフロー経営」が真っ盛りで、ずいぶんと安易な議論も横行していましたが、ウォーレン・バフェットの書簡集を読んでいた私には「CFは良いBSについてくるもの」「CF偏重は未来への投資を忘れたボロアパートの大家さん」という感覚でした(いまだそう思っています)。

 

2012年〜価値観5「スループット」

そして私はBSの改善で手に入れた「時間感覚」から逆にPLの改善に着手します。そう、「スループット向上」が次の価値観になったのです。

スループットのことをむりやり短く説明すると「時間あたりの生産性」一般には「売上高ー(真の)変動費」で計算します。

会社が使える時間資源は「社員数×労働時間」

この耕地から、いかに雑草(ムダな時間)を取り除くか、とボトルネックの解消が勝負。

お客様からの指示待ちだった営業業務をこちらから仕掛ける仕組みに変え、会議は時間厳守にして必ず結果を出させるなど、仕事の仕方をリデザインしていきました。

 

2013年〜価値観6「社員満足(給与)」

そして、ここまで来てやっと私の目は社員に向かいます。

「業界最高水準・学校当時の仲間に負けない・子供が望む教育を与えられる給与水準」で「社員満足」を上げることが私の次の価値観です。

そのせいで労働分配率はぐんぐん伸びましたが私は意に介しませんでした。

 

2018年〜価値観7「社員満足(気持ち)」

しかし、世の中そんなに甘くはありません。

十分な裏付けのない給与アップはすぐ「既得権益」と化してしまいます。

たった3年で安易な売上・粗利主義に陥った当社の業務は非効率化、たちまち営業利益が出ない会社に逆戻りしてしまいました。

(HD化・多角化経営に伴う権限委譲を進めていく中で「スループット」に関する考えを私がうまく伝承することができなかったことも大きな原因でした。)

そこで、新社長はじめ経営陣が率先して見本を示して膨れ上がったコストを整理。

社員にも野放図だったコスト意識を改めてもらいました。

さらに社員同士の連帯感やモノの大切さを感じてもらうために就業時間内に行う環境整備(社内や道路の清掃)など、部門を超えた活動を開始しました。

気持ちを切り替えてくれた社員のおかげで、2018年度の決算でここ2年ばかりの負け分は解消。

翌年度は創業来の最高益を記録することができました。

 

2020年〜価値観8「未来に貢献」

今後我々が大切にしようとしているのは、「未来への貢献度」です。

「社員満足」は「関係者間のエンゲージメント」にアップデートして引き続き取り組んでいきます。

今後はこの2つをてこに、コア業務の蓄電池設備、ようやく認知が高まりだしたCO2削減・エネルギーマネジメントコンサルタント業務、、日本の未来のためのジュニアプログラミング教室、そして同じ志を持つ経営者の皆様へのコンサルタント業務を展開し、「未来に貢献」していきたいなと考えています。

こうして自身の価値観の変遷を振り返ってみると、過去の価値観を完全に否定する、というよりも、新しい価値観がミルフィーユ状に過去の価値観の上に折り重なっていく、まさに「アップデート」なんだなと思います。

もし最初の頃の価値観をアップデートしないまま「変だな」と思わずに、「なんでも受注」したり、未だに「PL脳」のまんまっだりしていれば、当社のように経営資産(ヒト・モノ・カネ)がフツーの会社は、いまごろ相当な窮状に陥ってしまっていたでしょうね。

・・いやむしろフツーの会社だったからこそ、私達は仕組みや価値観を色々工夫してきたのかも知れませんね。