No,06_オブジェクト指向プログラミングに学ぶ 「オブジェクト指向経営」のススメ5

オーケストラの指揮者のように組織のハーモニーを生む、ポリモーフィズムってなんだ?

前回は「カプセル化」についてお話しました。

業務上での「カプセル化」の使い方をかんたんにおさらいすると

「素人がいじると危ないところや情報は、さわれないように(隠蔽)して、その情報リストと必要な情報の入手手続きのみを提供すること」

ただしカプセル化が力を発揮するのは「クラス化」も「継承」もきっちり行われていて、さらに「必要な情報が整理されいつでも提供される」、という認識が組織内で共有されていることが条件。

ですから感情が絡む人間界の組織では、カプセル化はあまり早い段階で始めると、それこそ「情報隠蔽」のそしりを受けるかもしれません。

なので最初はカプセル化の準備だけしておいて、「クラス化」や「継承」が進み、下のクラスにとって情報過多の状態になって、業務に差し障りができてから実装しても良いかもしれません。

さて今回は、「オブジェクト指向経営」最後の関門、名前からして難しそうな「ポリモーフィズム」のお話。

今回は江戸時代から続く(?)、企画デザイン会社「ゲンナイコーポレーション」の現場をのぞいてみましょう。

「カワサキくーん、どした? だいぶ疲れてるみたいだね。」

「あ ナカハタ先輩! 実は新任のイトイ所長が秋田県の漢方薬を使った健康飲料の企画デザインを受注してきて、ぼくパッケージボトルの造形デザインを担当することになったんですけど・・・所長の指示がほんっと細かくて・・・」

「へー カワサキくんは工業デザインが得意で実績があるんだから、そんなこまごま指示されなくてもできるよね?」

「そうなんですよ、なのに所長ったら僕の後ろに立って、ほらそこはそう、ここはこう、って、全部指示しないと気がすまないみたいで、ホントもういいよって感じです。

「そりゃ大変だ」

「しかもですよ、僕だけじゃなく映像やマーケティングの担当者の仕事にまで、ぜーんぶ口出ししているみたいで。」

「ありゃりゃ」

「しっかりとした指示ならまだしも、本人も時間がないせいか、細切れの指示になっちゃってるし、疲れも出てきたのか指示の切れ味も悪くなる一方なんですよ。ホント大丈夫かなぁ??」

「そうなんだー そりゃ大変だな・・逆に雑誌広告なんかのコピーコンテンツが本分の俺には全然指示が来なくて困ってるんだけど・・もしかして忘れられてるのかな?? じゃあ勝手にやっちゃおうかな?

えーっと タイトルは・・・と

ハエハエカカカ カンポカンポカンポ 漢方! なんてどう?」

「いやー 絶対怒られますって! お父さんの川崎徹と僕の父仲畑貴志を半分づつパクってるじゃないですか! だいたいハエもカも関係ないし」

「あはは まあそう言うなって!」

「おやおや しばらくぶりに戻ってきたら、江戸時代から続く我が社もずいぶん混乱しとるようじゃなぁ」

「あ あなたは!」

「ゲンナイコーポレーションの平賀源内ファウンダー!!」

「コピーライターの元祖であるワシが滞在した秋田に関連した商品、ということで、糸井くんも張り切りすぎておるんじゃろう。・・それにしても困ったもんじゃのう・・このままでは納期に間に合うかどうか・・品質にもかなり問題が出そうじゃのう・・」

 

筆者の年代のせいか、登場人物の名前がちょっと古いですし、江戸時代からタイムスリップしてきた人もいるようですが・・

こんな時、もし源内ファウンダーが「ポリモーフィズム」を知っていて糸井所長に助言できれば・・と私は思います。

「ポリモーフィズム」とは、オブジェクト指向プログラミング的に言えば・・

「異なるクラス間の類似したメソッド(手法)の名前を統一して、クラスによってメソッドを上書き(オーバーライド)すること。」

なんですが・・わかりにくいですよね・・・

ざっくり言えばオーケストラが、指揮者の指揮棒一本で素晴らしいハーモニーを奏でられることに似ています。

指揮者は、練習中はともかく演奏中は一人ひとりの演奏者に個別の指示を出したりはしません。

指揮棒一本の動きですべての演奏者を統率します。

また演奏者も同じ指揮者の指揮棒の動きを見ていても、各担担当パートの楽譜を見て別々の音を演奏します。

また同じ例えばラ(A)の音でも、各演奏者によって音を出す方法(メソッド)は異なります。

バイオリン奏者は弦を左手で押さえるでしょうし、ピアノ奏者は鍵盤、ホルン奏者はレバーを操作して音階を奏でます。

つまり、ポリモーフィズム(多様性)を、エースラボ的に組織運営にあわせて解釈すれば・・

「トップが全体的な方向性(統一されたメソッド)を指示したら、それぞれの担当部門に応じた個別の作業(メソッド)にそれを読み替え(オーバーライド)て実行する、という仕組みを作ることで、トップの負担を減らし、各部門の能力を最大に発揮してもらうことで、経営資源の最適化を図る仕組みのこと。」です。

しかしポリモーフィズムは、伝統的な日本の企業みたいに、トップが「がんばりましょう」とか「チャレンジしましょう」と短いメッセージのみ伝えると、各部門が各自の感覚で忖度して、下請けイジメに走ってコストを無理やり下げたり、複雑な取引で粉飾を決行・・・

で、ことが露見すると、トップが「そんな事になってるなんて知りませんでした。ご心配とご迷惑をおかけしました」という紋切り型の記者会見をするいうことではありません。

私達エースラボが考えるポリモーフィズムでは、トップ(親クラス)の短い指示(統一されたメソッド)に対して各部門(子クラス)はどういう作業に読み替えて具体的に行動するかが明文化されいて、さらにそれが組織内で共有されていなくてはなりません。

それでこそ、ポリモーフィズムは組織全体で美しいハーモニーを作り、成果を最大化できるわけです。

さて、ゲンナイコーポレーションも、現在過去未来、さらにあの世とこの世を自由に行き来できる(!)平賀源内ファウンダーの指示により、ポリモーフィズムが動き出しました。

イトイ所長は「健康だって続かないと!」というコンセプトコピー(統一されたメソッド)を生み出し、社内外に提示。

コンセプトコピーを各担当部門でどのように読み替えるかを、社内掲示板アプリで明示しました。

・雑誌媒体広告担当には「コンセプトコピーを題材にした物語をベースにすること」

・パッケージデザイン担当には「コンセプトコピーをベースに社会問題に切り込むこと」

といった具合です。

具体的な指示がなくてプラプラしていた雑誌媒体広告担当のナカハタ先輩は、「続く」を「続く物語」に読み替え、親子三代健康家族の具体的なモデル「山田ファミリー」を創作し、そのストリーづくりに着手しました(これをペルソナマーケティングというそうです)。

イトイ所長の細々な指示にへきえきしていたボトルデザイン担当のカワサキ君は、「続くを」、「地球が続くために」と読み替え、もともとリサイクル材料を含んで、さらに古紙としてリサイクルしやすい紙パッケージのデザインに乗り出しました。

細かな指示出しのせいで自分自身もくたびれはてていたイトイ所長も、元気いっぱい、マスコミにも登場して新しい健康飲料のPRに余念がありません。

どうやら、ゲンナイコーポレーションの混乱も、ポリモーフィズムのおかげで無事に解決、となりそうですね。

このようにポリモーフィズムは、一つの指示で組織全体としての「らしさ」を守りながら、顧客に最適なサービスを提供できる、組織トップにも末端にも負担が少なく、その上で各々が力を十二分に発揮できる考え方です。

この考え方に支えられた組織は、上司がこまごまとミクロ管理する必要もなければ、大将がお神輿のようにでんと動かず、下のものがそれぞれ勝手な方向にアメーバのように動き回った結果、とんでもないムダや思いもかけない失敗ばかり、という日本型組織の悪弊からも逃れることができると思います。

ポリモーフィズムにきちんと取り組むかどうかで、組織の生産性は相当違ってきます。

ポリモーフィズムはトップ及び御社全体がオーバーワークにならずに今よりもより良い成果を生み出せる鍵になりますので、ぜひ取り組んでみてください。

もしご自身でポリモーフィズムに取り組むのが大変だと思われたら、遠慮なくトップページにありますお問い合わせにてご相談ください。

さて、次回は「オブジェクト指向のススメ」全体のまとめを書こうかなと思っていたんですが、ポリモーフィズムは組織運営において結構具体的な適用に向いている概念なので、もう一つ二つ事例を書いてみたいと思います。