No,11_「弱くても勝てる」経営 1

弱いのに強かったローマ帝国に学ぶ(ミリタリーロジスティクスから考える)知力ではギリシャ人に劣り、体格ではゲルマン人に及ばない

ローマ人がなぜ世界帝国を作れたのか?

最近はメディアにもよく登場される漫画家ヤマザキマリさんの出世作「テルマエ・ロマエ」。

地中海世界に覇を唱え、隆盛を誇った古代ローマの浴場設計技師ルシウスが、現代日本にタイムスリップして…というコメディで、阿部寛さん、上戸彩さん共演の映画も続編まで作られスマッシュヒットしました

そのローマ帝国の力の源泉は軍事力。

テベレ川のほとりの小国にすぎなかったローマが、地中海世界の盟主となれたのは、ローマ市民によって編成された勇猛果敢な重装歩兵の力によるところが大きい事はよく知られています。

しかし、知力では数学や哲学、自然科学が隆盛を極めた、アテネなどのギリシア諸国に大きく劣り、体格では牧畜や狩猟を営むゲルマン人に遠く及ばなかったローマ人がなぜ強大な軍事力を誇ることができたのでしょう?

塩野七海さんの書かれた「ローマ人の物語」を紐解くと(全15巻読みました!)、その秘密の一端に触れることができます。

塩野さんはこの本の中で『ローマ軍の強さの秘密はその戦力ばかりでなく、「補給」「兵站(ミリタリーロジスティックス)」が優れていたことにある。』と喝破してしておられます。

「ロジスティックス」と言いますと、私達はつい「輸送」のことであるとか、「主にトラックの輸送業」であるとかを頭に思い浮かべがちですが、本来のロジスティックは、

「サプライチェーンプロセスの一部であり、顧客の要求を満たすため、発生地点から消費地点までの効率的・発展的な「もの」の流れと保管、サービス、および関連する情報を計画、実施、およびコントロールする過程である。ロジスティクスは、物流において生産地から消費地までの全体最適化を目指す。」

とWikipediaにあり、さらに兵站(ミリタリーロジスティックス)となると

「戦闘地帯から見て後方の軍の諸活動・機関・諸施設を総称したもの。戦争において作戦を行う部隊の移動と支援を計画し、また、実施する活動を指す用語でもあり、例えば兵站には物資の配給や整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持などが含まれる。」

と書かれており、もっと幅広い概念を表します。

塩野さんによると、ローマ軍は進軍中、渡河のために仮設の橋を架ける際、その橋が地面と同じ高さで水平にかけられることに最大の注意を払ったそうです。

一般的に当時の橋は長さを節約するために河川敷部分まで下りて行って、本当に水のあるところだけに架橋することが一般的でした。

そうすると、橋まで行く上り下りに手間がかかり、特にのぼり部分は荷駄を引く馬の力が足りず、補給物資の配送が滞ることをローマ人は何より恐れたのです。

おかげで最前線のローマ軍兵士は、食糧、水、燃料や武器などあらゆる物資をふんだんに使って戦いを続けることができたのだそうです。

「ローマ人の物語」にはもう一つ、ロジスティクスの例が出ています。それは前線基地の作り方。

当時たいていの国の前線基地は、後ろを崖や森などに守られた自然の要害に立地し、決戦場所となる平野側に簡単な柵を設け、兵舎は簡単なテント、というのが常識でした。

戦争はスピードが命、しかも1年程度しか使わない前線基地などに手間はかけられない。ローマ帝国がその支配地を増やすために戦った周辺の蛮族たちも、当然その例に漏れなかった訳です。

しかし、ローマ軍は、当時から見たら全く非常識な前線基地を作りました。彼らは進軍用に作った仮設というにはあまりにも立派な道路の先に、まず太い丸太を垂直に打ち込んだ頑丈な柵で覆われた広い用地を確保します。

もちろん敵が妨害にくるのは覚悟の上、破壊活動にも臆する事なく、腰を据えてじっくりと工事に取り組みます。そして敵が入ってこれない広大な用地を確保すると、おもむろに本格的な兵舎を建て始めるのです。

この間数ヶ月、ローマ軍は敵の挑発に乗らず、小競り合以上の戦いには決して応じません。

そして、前線基地が落成するや、そこを拠点として会戦向きの平野に進軍、呼応した敵と本格的な戦いに入ります。

そして日が落ちれば、基地に戻り、立派な兵舎で補給路から運ばれたローマ風の料理に舌鼓を打ち、ゆっくりと休養し、また翌朝平野に進軍します。

かたや敵方は、不便な基地に戻り、土の上にたてたテントで粗末な食事をし、湿気や虫に悩まされながら就寝、手入れもままならない武器で戦わねばなりません。

これではいかに勇猛果敢な蛮族でも、日を追う毎に負け戦がこみ、最後には降参してしまいます。

さてそこからがローマ軍の真骨頂。彼らは恭順を誓った相手を、本格建築の前線基地に招き入れ、そこをそのまま「町」として使用します。

そして彼らに「ローマ市民」としての待遇を与え、自分たちの味方に引き入れてしまうのです。

こうしてできあがった「属州」は食料などの補給地となり、立派な道路を使ってローマ本国に豊かな暮らしをもたらしました。

さらに属州は「人材」の補給地としても機能し、ローマ帝国最盛期にはトラヤヌス(スペイン出身)やハドリアヌス(同じくスペインがルーツ、テルマエ・ロマエにも登場)など属州出身の皇帝も数多く生まれました。

一見するとローマ帝国の繁栄は、道路や橋などのハード(モノ)と屈強な兵士(ヒト)によって得られたもののようにみえますが、実は「ロジスティクス」という考え方(=ソフト)に支えられていたんですね。

そしてこの広義のロジスティックスは、軍事や国家運営のみならず、ほとんどの組織の内部においても非常に重要だと私は考えていて、自分の会社でもロジスティックスの構築に専心してきました。

実は私達エースラボの仕事って、ざっくり言ってしまえば、この広い意味での「ロジスティクス」を、中小企業の皆様と一緒に考え、ビルトインして、継続的に利益の出る仕組みを作ることなんです。

社内と社外に目に見えない価値の「道」を作り、川があればスピードを落とさず最小の労力で渡れる「橋」を架け、顧客価値創造の最前線には同じく最小の労力で成果を出せるための「基地」を建設する。

ローマ帝国風に言えば、そういったことが私達が顧客企業とともに取り組んでいることです。

どうです? 相談してみたい気になりました?? (笑)

次回は「強いのに弱かった?日本」というタイトルで、引き続きロジスティクスを通じて見えてくる、われわれの課題について思うところを書かせて頂く予定です。