CF(キャッシュフロー計算書)・PL(損益計算書)・BS(バランスシート)を経営に生かす超入門知識
第1回 「最近よく聞くキャッシュフロー計算書って役に立つの? 」
社長! 決算資料みてますか?
皆様の会社でも株主総会や、銀行に提出するために「決算資料」をお作りになっていると思います。
中には
「そんなもの悠長にながめているヒマはないよ 毎月の資金繰りが大変で 今月の支払い予定と現預金をにらめっこ 不渡りだけは出せないからね」
という綱渡りというかアクロバット真っ最中の社長さんもいるでしょう
逆に
「毎月の売り上げと粗利くらいはチェックしているけど、お金のことは会計事務所と経理に任せてるからあんまり見ないな〜
年度が終わって、納税額を説明されて、たっかいな〜って思う程度かなぁ」
なんて男前な勝ち組社長さんもおいでになるかもしれませんね。
みてないの〜? それもったいなくないですか?
どちらの社長さんも私は正直、もったいないと思いますよ。
資金繰りにヒイヒイ言っていても、決算書をよくよく見渡せば打開策が見いだせる場合もあります。
また、その苦しみから脱却できた後の成長策まで考えながらヒイヒイ言うのが、経営の醍醐味ではないかと思います。
逆に今、余裕しゃくしゃくで経営なされていても、それは自社の製品・サービスが今、この時代の要求に合っているからで、未来まで約束されているわけではありません。
今ウケまくっている製品・サービスが成長を終える前に次の策を練る、これもまた経営の醍醐味のはず。
「自分の未来を自分でつくる」
これができるのが経営の醍醐味だと思います。
決算書は会社を未来へ導く舵取りのための大切な海図のようなもの。
もしも、せっかくある海図に目もくれず、目視と感覚だけで船を操るような船長さんがいたら実にもったいなく、危ういことだと、私は思わざるを得ないわけです。
今回はキャシュフロー計算書についての物語
これから数回にわたり、会社の未来を変える3つの決算資料(キャッシュフロー計算書・損益計算書・バランスシート)について、それぞれ取り上げてざっくりとわかりやすく物語形式で書いていきたいと思います。
まず一回目は最近良く耳にすることが増えた「キャッシュフロー計算書」についての超入門知識。
最近流行りの「キャッシュフロー経営」にも通じる、なにやらありがたそうな名前ですが、中小企業の経営に役に立つのでしょうか?
そりゃあ「キャッシュフロー」を「計算」するわけですから、役に立たないわけないですよね、きっと・・
「キャッシュフロー経営とキャッシュフロー計算書の物語」では早速始めさせていただきます。
「お金が足りない銭賀社長」物語
さて今回お話に登場する社長さんは社員数3名、パン洋菓子材料卸業のCF商会、銭賀足男(ぜにがたるお)社長です。
銭賀社長のご商売は市内のパン屋さんや洋菓子屋さんに、材料を卸すというもの。
卸売りのお仕事は、お客様から注文があったらすぐお届けできるよう、まとまった量の商品を在庫として先に仕入れておかねばなりません。
なので先に仕入れのためのお金が出ていき、お金が入るのは早くても、お客様のパン・洋菓子屋さんに材料を販売した翌月、ということになります。
起業前にすこし蓄えがあったので銀行からの借り入れはありませんが、社長はお名前に似合わず、いつも資金繰りで大変。
支払日に経理担当のパートさんから「今月5万円足りません」なんて言われるたびに、自分の通帳から会社の通帳に移動(これを「役員借り入れ」と呼びます)。
「税理士事務所から来る月次決算では、前月も黒字だったのになぁ」なんてボヤキもついでてしまう日々を送っていました。
キャシュフロー計算書でキャッシュフロー経営はできるのか?
そんな銭賀社長、ある日「キャッシュフロー計算書」という言葉を聞きつけ、これがあればキャッシュフロー経営とやらができて資金繰りが楽になるのかな?と税理士に作成をお願いしてみました。
早速先月分の「キャッシュフロー計算書」を作ってもらいましたが、「営業キャッシュフロー」「投資キャッシュフロー」「財務キャッシュフロー」といった、見慣れない文字と金額が書かれているだけで、なにを言いたいのかよくわかりません。
困った銭賀社長は税理士先生電話をかけて聞いてみましたが、
「キャッシュフロー計算書は今あるお金を何(本業・投資・借金)で得たかがわかる資料、なので
将来のキャッシュの流れが分かったり資金繰りに使えたりするわけではないよ。」との冷たいお返事。
結局キャッシュフロー計算書で「お金があんまりない」ことだけが再認識できただけで、キャッシュフロー経営はできないことがわかりました。
ザルキャッシュフロー登場
そんなある時、お友達の経営者から、昔の八百屋さんが店先にぶら下げたざる1個で現金を管理してたように、毎日、金庫の現金と預金口座の残高だけをチェックする「ザルキャッシュフロー」という考え方を教えられた銭賀社長。
さっそく経理担当のパートさんに毎日の現金と預金の残高だけメモをもらうようにしてみました。
ザルキャッシュフロー成功!
メモを見ながら、月末は支出を抑え、支払いに必要な現金が残るように工夫したことで、少しづつ支払いで困ることはなくなって行きました。
そしてそのとき教えてもらったザルキャッシュフローの鉄則「来月必要になりそうな現金はキープしておく」を守っていたら、CF商会には少しづつ余ったお金が発生しだします。
「来月のことまで考えて現金を管理したおかげで、役員借り入れでお金を出し入れする必要もなくなったし、仕入れを適正に抑えたことで過剰気味だった在庫もだいぶ減ってきた。
来月どころか再来月もその次の分も払えるくらい現金も貯まってきた。いーぞいーぞ〜。」
節税の甘い誘惑
「けどあんまり儲かると税金が心配だな・・・」
「余ったキャッシュは利益につながって税金を払う羽目になる」そう考えた銭賀社長は、「節税」の名目で「来月の支払いに必要な分以外のお金はなるだけ使う」ことに決めました。
くだんのザルキャッシュフロー提唱者のお友達の紹介で、地元経済団体の名簿に名を連ねた銭賀社長は、余ったお金を会員さんとゴルフや飲み会などのお付き合い等に費やしていきました。
毎月の支払いの心配もなくなった上に、楽しく遊べる経営者の仲間も増え、「社長になってよかった!」と心から大満足の銭賀社長なのでした。
とうとう その日暮らしのツケが・・・
そして3年後のある日のこと、なんと配達にも使っていた15年モノのワゴン車が故障で動かなくなってしまいました。
前々から車の不調に気づいていた銭賀社長ですが、すっかり遊び癖がついてしまい、現預金に余裕がなく、ついついそのままにしていたのです。
慌てて知人の整備工場に程度の良い中古車を探してもらいますが、全額どころか自動車ローンの頭金もないので残価設定型の5年リースで契約することに。
おかげで毎月の経費は3万円アップしてしまいました。
さらに悪いことは重なるもので、創業以来使っていた冷蔵設備にもいつの間にかガタが出始め、仕入れた材料が痛んでしまうという大トラブルが発生。
こちらの修理費はいったいいくらかかるのやら・・・
こまりはてた銭賀社長、ザルキャッシュフロー提唱者のお友達に相談の電話をかけてみましたが、
「ウチもまだまだ使えると思って中古で買った工作機械が3年で壊れちゃってローンが払えなくて四苦八苦してるんだ。悪いけどこっちのことで手一杯で人の相談に乗ってる場合じゃないんだよ。」
とのつれない返事。
お二人とも資金をなんとか工面して、地道に借金を返していかなくては会社を潰してしまいそうです。
楽しかったお遊びも、地元の経済団体への出入りも、しばらくは見合わせですね。
(おしまい)
それはキャッシュフロー経営ではありません
このお話は実話ではありませんが、モデルとなった会社をたたんでしまって現在音信不通の知人経営者はいます。
こんな具合に解釈を間違えたキャッシュフロー経営は、その場しのぎのジリ貧経営になってしまう可能性が大なのです。
利益にかかる法人税がいくら高いと言っても、法定実効税率は33.58%ですから、利益の半分以上は手元に残ります。
毎月の支払いを管理することだけでなく、しっかり利益を出して税金(法人税)をしっかり払うことで結果的に未来に備えた現金を会社に残す。
目先のキャッシュフローだけでなく「キャシュストック(余剰金)」にも気を配っておけばよかったですね。
中小企業のキャッシュフロー経営に必要なのは 未来予測図「資金繰り表」
私は中小企業のキャッシュフロー経営に必要なのは、結果しかわからないキャッシュフロー計算書でも、その場しのぎのザルキャッシュフローでもなく、未来を見渡せる「資金繰り表」だと思います。
皆様の会社では、「資金繰り表」を使っていますか? そして社長さんも定期的にチェックしていますか?
その資金繰り表には何ヶ月分の資金繰り予想を立てていますか? そしてその入出金の予想は昨年と同じとかではなく、根拠のあるフレッシュな予想が使われていますか?
キャッシュフロー経営は「魔法のように儲かる経営手法」のことではありません。
目先のキャッシュフローだけでなく数ヶ月先に出ていくキャッシュ、さらには将来の設備投資に必要になるキャッシュ、そして毎月の販売で入ってくるべきキャッシュ、が見渡せる資金繰り表を作って、「未来を作る」経営を行うのが本来的なキャシュフロー計経営ではないかと思います。
結論
中小企業のキャッシュフロー経営にとって必要なのは、精度の高い未来を見渡せる「資金繰り表」。
実はキャッシュフロー計算書ではない、という逆説的なお話でした。
次回は 損益計算書(PL)と赤字が経営に与える影響
次回は「今年はいくら儲けたの」かがわかる損益計算書と、考えるのも恐ろしい赤字の話をさせていただきます。
お楽しみに!
ちなみになる話
☆キャッシュフロー計算書は、上場会社の粉飾決算に対する株主の財産保護を目的に1990年代にアメリカで始まり、2002年日本の上場会社もその公開を義務付けられた比較的歴史の浅い決算資料です。
その会社の株を持っていたり、買おうとしている投資家が「決算は黒字だけど配当のための現金はちゃん持ってるの?その現金は本業で稼いだの?借りてきたの?将来のためにちゃんと投資してる?」ということが分かる資料です。
つまりキャッシュフロー計算書というのは、元はと言えば上場会社の株主(投資家)のための資料なんです。
私は株を売らないオーナー会社にとってのキャッシュフロー計算書はほぼ「お飾り」だと思っています。
☆若干難しい話になりますが「オマハの賢人」こと伝説の投資家ウォーレン・バフェットさんの言葉を紹介します。
「キャッシュフローは株主利益=A会計上の利益+B減価償却-C平均的な設備投資費用(=減価償却費))のCを無視している。キャッシュフローは証券を販売する連中が正当化できない取引を正当化するために多く用いられる数値に過ぎない。
つまりキャッシュフロー計算書が、「現在いくら持っているか」ばかりを問題にしていて、会社の未来にかかる費用を全く考慮してないことを批判しているのです。
☆「キャッシュフロー計算書」についてもっと詳しくお知りになりたい方は、「出張経理課長」布川の記事をご覧ください