【ラボ これも読んでおこう】_3 「経営の定石」の失敗学 小林忍 ディスカバー・トゥエンティワン

経営トップ7人の推薦

さて今回取り上げるのは 「経営の定石」の失敗学 小林忍 ディスカバー・トゥエンティワン

カギカッコ付きとはいえ 「の」が連続する 日本語表記としてはあんまり美しくないタイトル、著者も聞いたことない人。

KindleUnlimitedでただで読める、という理由だけで通勤電車の中で読み始めたこの本ですが、経営者はもちろん、経営企画などインテリジェンス部門のかた、現場のリーダーにもおすすめできるなかなかの内容です。

目次の前の4ページに及ぶ7人の推薦文はダテではありませんね。

失敗するわけないでしょう!

とは言うものの、「経営の定石」の失敗学 とは気になるタイトルです。

「経営コックピット」「俊敏な経営」「リーダーシップ」「ワイガヤ」「現場主義」「コミットメント」「モチベーション」「選択と集中」「ポートフォリオ」「花形商品」

経営を学ぶ者なら、どれも耳にタコができるくらい聞いたことのある「経営の定石」たち。

徹底不足が原因で「取り組んでもあんまり効果がでなかった」ということなら、まああるでしょう。

でも定石を追求した結果失敗するなんて、あるわけないと思いませんか??

いえいえ失敗するんですよ これが

もちろんこれらの定石は、それぞれ世界企業の成功を導いてきた、信頼も実績もある、まるで「中川家」*のようなものばかり。

たとえば「ワイガヤ」はホンダを「現場主義」はトヨタを世界企業に押し上げましたし、

「コミットメント」は日産を、「選択と集中」はGEを経営危機から救いました。

しかし、16年に及ぶ経営コンサルタントのキャリアの後半8年間を事業再生に捧げてきた筆者が見たのは、こういった「経営の定石」に熱心に取り組んだ挙句の果てに、経営危機に陥る企業の数々。

一体どうしてこういう事が起きてしまうんでしょう?

失敗の原因は定石のカン違い

筆者は、その失敗の原因として

「経営の定石」を”特効薬”と信じて、あまり深く考えることなく採り入れたこと(原文ママ)

を挙げています。

私流に解釈というか たとえツッコミするとしたら

特効薬が何に効くかも確かめず、さらに用法用量を守らずに飲んで具合が悪くなった

あるいは

ほおのコブを取ってほしくて 踊りの本質をわきまえずに鬼の前で踊った結果 ほおのコブをもう一つ増やされてしまった 二人目のこぶとり爺さん**

もっと厳しいことを言えば 泳げないのに「ウのマネをするカラス」

と言った感じでしょうか。

事例はちょっと抽象的でわかりにくいかも

ここで取り上がれられる事例は実際のものではなく、すべて筆者が再建にかかわった、複数の企業を合成して作った架空のものです。

私もその端くれですが、経営コンサルタントには守秘義務があります。

マスコミに取り上がられなかった素材も多いと思いますので、一部を除き「あ〜あの会社ね」とわかるものは殆どありません。

そこがもしかして、少しリアリティに欠ける感じを与えるかもしれませんが、私は筆者の実直な性格がうかがえてかえって好印象でした。

この本を出版した時点で、筆者の小林さんはメーカ勤務に戻られているようですので、そのへんも影響しているのかもしれません。

なので読み物として「ただ人の失敗を楽しみたい」という方には向いてない本だと言えます。

責任を持って企業にかかわる全ての人に向けた本

この本は社長や役員など、いわゆる経営層だけのための本ではありません。

それぞれの定石が招く恐れがある危機の解説の後に

「経営者のあなたへ」「本社部門(経営企画など)のあなたへ」「現場のあなたへ」

と、それぞれの階層に向けてむけての丁寧な処方箋が記されています。

各処方箋の内容の骨子は

・経営者には、広く深い視座を持つこと。

・本社部門には、事象を切り分けて正しく分析し、経営層に伝えること。

・現場には、起きていることを正確に上層部に伝えること。

とシンプルなので、読者としては同じことを繰り返されているように見えてしまうかもしれません。

しかし、ほとんどの経営危機は社内政治的な観点から「簡単なことを複雑に実行した」ために起きるものです。

また、本社部門、現場には、最初から上層部を慮って発信することなく、最初に思うところや真実を語り、それが通らないときは無理せず「魂を売る」事をすすめています。

この辺もただ理想を語るだけで社内を混乱させるタレントまがいのコンサルタントとはひと味もふた味も違うと思います。

私はこの本は、自分の勤める会社が良くなるか悪くなるか、なんて考えない人以外、

つまり責任を持って企業にかかわるすべての人に向けた、非常に優れた本だと思います。

* 私が大好きな兄弟漫才コンビ 中川家が時々ツカミでつかう「信頼と実績の中川家」

公式インスタに投稿された「中小企業のCMのモノマネ」でも使われています https://www.instagram.com/nakagawake.tsu.re/reel/CfWEciNhHyp/

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