先日、東京商工リサーチの「2025年のリスク回避と成長戦略〜倒産動向からみえる国内経済〜」を視聴しました。結構衝撃的な内容もありましたので、どのような内容であったか、
簡単に下記に記したいと思います。
企業倒産数
2024年の倒産件数は10,006件で前年比にすると15%程度の増加となり、件数が1万件を超えたのは11年ぶりのようです。
特徴
主な特徴としては、全国9地区全てで2年連続増加。業界的には10業界(農林漁鉱業、建設業、製造業、卸売業、小売業、金融・保険業、不動産業、運輸業、情報通信業、サービス業他)のうち、金融・保険業、不動産業を除く8産業で件数が増加したようです。卸売業、農林漁鉱業、情報通信業の3業界は対前年度で20%超の増加率となりました。倒産の原因で一番多いのは「税金滞納」倒産で過去最多の176件となっております。続いて「粉飾決算」「ゼロゼロ融資」利用後の倒産と続いているようです。
規模別
規模別に見てみると、資本金1,000万円未満の企業が7割を超えています。資本金が1億以上の倒産は55件で前年よりは減少。負債額では1億円未満の倒産が7,500件弱で前年比で15%近く増えています。
休廃業・解散
2024年では、休廃業・解散が62,000強と過去最多になったようです。黒字企業でも減少傾向ではあるものの51%程度あるとのことです。
小規模企業の倒産が多くなってきて、資本力の乏しい企業が特に厳しい状況であることや民事再生法の適用企業の再建率は低く、持続的な経営再建の難しさが浮き彫りになってきているようです。
今後の注目点
今後の注目点としては、下請法が強化されて、下請代金支払遅延の規制が強化されるようです。手形のサイトが120日から60日に短縮されるとのことです。2026年には紙の手形が廃止になります。既に大手銀行は2025年1月に手形帳の発行を停止しているようです。
金利の上昇
日銀が2025年1月22日に政策金利を0.5%引きあげることを決定。すでに半数近くの企業が金利上昇を実感しており、今後は新規借入・借換に伴う金利負担が増大する可能性があるとのことです。
倒産の主な要因
主な要因としては、①粉飾決算の発覚増加、②税金滞納による倒産、③人手不足・後継者難による倒産、④過剰債務の解消遅れが挙げられています。
①上半期で粉飾決算による倒産が11件(対前年比120%増加)。特徴としては、金融機関に優良企業と見せかけ、貸出を引き出していたケースが多数。事実発覚後に支援を打ち切られ「破産」にいたるケースが多数。
②においては、コロナ禍での過剰債務、円安・物価高、人材コスト増、2024年10月から社会保険適用拡大による負担増によるもの。今後は税金等の滞納をしている場合、取引先に対して「年金機構、国税の債務承認書・照会書等」といった書面が送付されるとのこと。これにより取引中止になるケースも出てくると思われ、影響が大きいと考えられますね。
③はゾンビ企業(収益力が低く金利負担に耐えられない企業)が増加。2023年度決算では、約57万社がゾンビ企業と推定されています。また、経営者の後継者不足が深刻な状態にあることも影響しています。
④では、借入金が月商の5.4倍と高水準で負担が大きいことが影響しています。
具体的な倒産事例
堀正工業株式会社:ベアリング 商社、負債総額282億円
最後に倒産事例について記載いたします。この企業はすごいです。銀行数行から40億円程度の借入としながら、50行から325億円ほどを調達していたようです。
赤字決算を隠すために仕入れ、在庫を調整して金融機関ごとに借入金や支払利息が違う決算書を50パターン作成していたようです。2003年頃から継続的に行われていたようです。この会社は民事再生を目論むが結局は破産したようです。
決算書の最大値と最小値の差額は、資産合計で2,161百万円とのこと。経理担当者はどんな思いで決算書を毎期作成していたのでしょう。
金融機関は貸出リスクの管理を強化し始めており、企業の資金繰りは厳しくなる可能性があることをお伝えしておきます。
なかなか厳しい時代に突入してきているんだなぁと思ってしまいます。
さて、今回はバランスシートの内部留保についてです。
内部留保
内部留保とは、企業が得た利益のうち、配当や役員報酬として支出せずに企業内に蓄積した資金のことを指します。企業の成長や安定経営のために利用され、設備投資、研究開発、財務の安定化などに活用されます。貸借対照表上では「利益剰余金」として計上されることが多く、現金や預金だけでなく、不動産、設備、金融資産の形で保持されることもあります。
利益剰余金とは?
利益剰余金は以下の2つに分けられます。
・利益準備金:会社法に基づいて、株式会社が一定割合を積み立てることが義務付けられた準備
金。主に倒産リスクに備える目的で蓄積される。
・その他の利益準備金:企業の経営判断によって自由に使える利益剰余金であり、設備投資、研
究開発、M&A、従業員の賃上げなどに充てられる。
皆様、こんな話を聞いたことはないですか?
内部留保が大きくなると「ボーナスとして従業員に支払うべきだ」との声が大きくなります。これは正しいのでしょうか?
もちろん正しいとは言い切れません。内部留保は利益剰余金であって運用した資産の増加分であって、現金になっているわけではないのです。内部留保に相当する現金は存在しないのです。
最後に、内部留保を賃上げや設備投資に活用した事例をお伝えします。
賃上げに活用した事例
トヨタは、過去最高水準の内部留保を背景に、2023年の春闘で満額回答を実施し、賃上げを決定しました。これは、国内外の市場競争力を維持するために従業員のモチベーション向上を目的としたものです。この事例では、内部留保が従業員還元と企業の成長の両立に活用された例といえます。
設備投資や研究開発に回した事例
ソニーグループは、2022年に内部留保を積極的に活用し、AI・半導体・ゲーム事業の研究開発に数千億円規模の投資を行いました。これにより、新技術の開発が進み、将来的な収益の増加につながる可能性が高まります。この場合、内部留保を短期的な賃上げよりも長期的な成長に活用する方が合理的であると判断されたといえます。
内部留保の活用について
企業が内部留保を増やすこと自体は悪いことではなく、むしろ経営の安定性を高めるために重要です。しかし、その使い道が偏ると批判を受けることもあります。
・短期的な還元(賃上げ・ボーナス):景気の好転や人材確保が目的なら適切。
・長期的な投資(設備・研究開発):競争力を維持・向上させるために必要。
・過度な蓄積:従業員・株主・社会への適切な還元が必要になる可能性あり。
つまり、企業の成長戦略とバランスをとりながら、従業員や社会に適切に還元することが重要だといえます。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!