この雑文をお読みいただく頃、年もあらたまり、みなさまもまた新しい一歩を歩んでおられることと思います。
これを書いているのは12月末ですが、先日も外出先の空を見上げると、遠くシベリアから来たと見られるハクチョウがきれいなV字編隊で湖をめざして飛んでいくのが見えました。
毎年のことではありますが、「ああ、冬がやってきたなあ」と実感するシーンです。
渡り鳥で思い出しましたが、よく思慮の足りないことを「鳥アタマ」なんて言いまして、鳥類って哺乳類より賢くないイメージが一般的だと思います。
鳥の中でもかしこいと言われるカラスの脳の重さはせいぜい10グラム程度、チンパンジーとくらべるとだいたい26分の1、とかなり小さく感じます
しかしこのカラス君と、人類に次いでかしこいと言われているチンパンジーの知能テストの点数が全く同じ、という衝撃的な研究結果が2016年に発表されています。
どうやら「動物の脳の大きさと知能は比例する」という見解はだんだんと過去のものになりつつあるようです。
実は私たち人類にも似たような話がありまして、4万年前に絶滅した旧人類ネアンデルタール人は、言葉を持ち、石器を使い、埋葬の習慣や、壁画なども残っていますが、その完成度を比較すると、同じころに生きていた私たちホモ・サピエンスより知能は下回っていたと思われています。
ところがネアンデルタール人の脳は男性の平均が1600cc、より賢いはずの私たちホモ・サピエンスの平均1450ccを大きく上回っていたことがわかっています(ちょっとショック)。
じつはさらにショッキングな話がありまして・・・先程1450ccと申し上げたホモ・サピエンスの脳の大きさは、ネアンデルタール人と同時代、つまり共生していた頃のもの。
私たちホモ・サピエンスの脳の大きさはその後大きくなったと思いきや、1万年前あたりから下がりだし、現代人男性の平均はなんと1350cc!昔より脳が小さくなっているんです。
たぶん、皆さん逆に現代人の脳のほうが大きいと思っていたんじゃないでしょうか。
もしかして1万年以上前の古代人や、ネアンデルタール人のほうが脳が大きくて現代人より優れていたのでしょうか?
いえいえそんな事はありません、どうぞ安心してください。
私たち現代人は「時間」という試練を乗り越えて彼らよりも長く生き延びて、彼らがなし得なかった規模で繁栄し、文明を謳歌しているのですから、彼らより優れている、つまり「賢い」と考えて間違いないでしょう。
実は古代人から我々への脳の容積の変化は、数字や文字の発明、つまり脳の記憶機能の外部化と関係があるのではないかと言われています。
記憶を外部化して文字や数字にして残せば、いちいち脳で覚えておく必要がなくなります。
例えば数カ月後の約束も予定表にさえ書いておけば、確実に遂行することができますね(その予定表を見るのも忘れてしまう私のような例外もいますけど)。
もし仮に古代人が脳の大きい分、私たちより記憶力が良かったとしても、数カ月後の予定を遂行することは不可能です。
なぜなら、そもそも彼らは数字や文字の概念がないので、正確な日時というものをそもそももっていないから、せいぜい今日明日の予定を持つのが精一杯でしょう。
また私たちより大きな脳とたくましい身体の持ち主だったネアンデルタール人が絶滅したのは、大きな脳のせいでホモ・サピエンスより1割強カロリーを余計に取らねばならず、きびしい狩猟・採集生活を種として生き延びるのが難しかったのではないか、ということが言われています、
また近年のネアンデルタール人の遺跡の発掘調査から、彼らはホモ・サピエンスのような血縁外も含めた、数百、数千といった大きな集落ではなく、数十名の血縁を中心とする比較的小さな集落で暮らすことが多く、知識の集積や発達などには欠かせない集団としての強さを発揮できなかったのではないか、という新説が生まれつつあります。
彼らが部族や国などの大きな集団を作れなかった理由の一つとして、「言語の完成度」をあげる学者もいます。
ネアンデルタール人も化石の舌の筋肉を収める部分の大きさなどから、一定のレベルの言葉をあやつっていた事はわかっています。
しかしネアンデルタール人の使う言語は、「愛」「平和」「仲間」など、血族以外の「他者」と共感しあい、強調して行動できるような、抽象的な概念を表す力をもっていなかったのではないか?というのが学者たちの主張です。
他の生き物と比べて圧倒的に大きい脳の存在がネアンデルタール人も含めた私たちヒト科のストロングポイントなのは間違いないと思います
もしかしたら、より大きな脳を持つネアンデルタール人のほうが記憶力や演算力はホモ・サピエンスより優れていたかも知れません。
だとすれば、私たちホモ・サピエンスの彼らに対する優位性を決定づけた真のストロングポイントは、集団で力を合わせるための抽象的な概念に導かれた、共感力・コミュニケーション力だったのではないのでしょうか?
ここ数十年でパソコンが一般化し、さらにここ数年でスマホを誰でも使える環境になってきました。
実はこのことで、予定はもちろん漢字だとか電話番号だとか、我々が記憶しておかねばならない事柄は劇的に減っています。
もしかしたら、未来の人類の脳の容積はまた少し減ってしまうのかも知れません。
私たちがそこに危機感や恐怖感を感じているからこそ「ゲーム脳」「スマホ脳」といったITに対してネガティブなワードがバズるのだと思います。
しかしITという「道具」の進化で、脳の機能が外部化され、私たちの子孫の脳が仮に小さくなったしても、真のストロングポイントである共感力・コミュニケーション力が人類全体としてより磨かれていくのであれば、それはむしろ祝福されるべきものでないのではないか?
道具を使うことで、野獣のような筋肉を持たずとも繁栄してきた私たちは、脳についても同じように、ITという道具で記憶や演算力をカバーし、共感力というストロングポイントをより活かしていくことが可能なはずなのだから。
これが、私が人類の未来について割と楽観的な理由なんです。
ここに来て「分断の時代」とよくいわれますが、IT化のおかげで私たちの情報の解像度が上がった結果、これまでなんとなく感じていた「世界は1つ」は「勘違い」だったことに気がついた」というだけの話。
私が大好きな清水ミチコさんがよく「今の若い人は心がどんどん清くなっている」といっています。
「世界は(ゆるーく)1つ」を実現するための、多様性に対する許容度や、ことなる価値観に対する共感度は「次世代の皆さんのほうが格段に優れている」と私も感じています。
☆最近、化石から採取されたDNAの分析から、ネアンデルタール人と私たち人類との間で交配があったことを確信させる証拠が浮かび上がってきました。人類発祥の地アフリカを除く現代の人類のDNAには2〜4%程度、ネアンデルタール人由来のものが含まれているそうです。
☆ハクチョウ飛行隊もきれいなV字飛行。前を飛ぶ仲間の翼の先端に発生する上昇気流に乗ってエネルギーを節約するためらしいです。実はあれもかなり高度な脳の機能が必要らしく、鳥は飛行機と違って羽ばたきによって上昇気流は波のように大きく変動するので、後続の鳥たちは変動する上昇流の波が最大限に達するタイミングにあわせて自分の翼を羽ばたかせる必要があります。「そんなこと、あの小さい頭の鳥たちにできるの?」と専門家の間でも疑問の声が上がってました。しかし、2014年の研究で、後続の鳥たちは一糸乱れず平均で45度の遅れで羽ばたく(つまり前の鳥が羽を打ち下ろした時に、ピッタリのタイミングで自分の羽を最大限に振り上げている)ことがわかり、「鳥は実はかなり賢い」という共通認識が次第に生まれつつあります。