【ラボ これも読んでおこう】_4 マネー・ボール完全版 マイケル・ルイス著 ハヤカワ文庫

さて今回取り上げるのは MVP大谷翔平がロサンゼルス・ドジャーズをメジャーリーグ優勝に導いた今年の最後にご紹介するのがふさわしい マネー・ボール完全版 マイケル・ルイス著 ハヤカワ文庫

あらすじは?

ソロモン・ブラザーズで債券セールスマンとして働いた経験があり、「ライアーズ・ポーカー」「マネー・ショート(原題 The Big Short)」などの金融ノンフィクションで知られる作家マイケル・ルイスによるスポーツノンフィクション『マネーボール』は、メジャーリーグの弱小球団、オークランド・アスレチックスが、データ分析を駆使して強豪チームに打ち勝ち、リーグを揺るがした実話を描いた作品です。

オススメの理由

この本は、単なるスポーツノンフィクションではありません。

限られた予算の中で、いかに最大限の成果を上げるかという、あらゆるビジネスパーソンが直面する課題に対する、鮮やかな解決策を示唆してくれる、ビジネスのケーススタディ満載の読み物なのです。

そもそも金融・証券市場が主戦場の作家マイケル・ルイスがオークランド・アスレチックスに興味を持ったのは、「アメリカメジャーリーグ随一の貧乏球団がなぜプレーオフの常連でいられるのか?」の一点のみであり、この本の主人公格であるゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンのことを知らなかったそうです。

☆ゼネラルマネージャー(GM)というのは、日本の野球界ではあまり馴染みがありませんが、「チームの編成」つまり、どんな選手をドラフトで指名するのか、とかトレードで獲得、放出するのかなどの権限を持ちます。いわば人事担当の取締役みたいなものですね(MLBの監督は、その与えられた戦力で全力をつくす、いわば現場のトップです)。

効果1 「相手の方が大きくて強そう」というだけでビビらなくなる

当時のメジャーリーグのチームの編成の王道は

「打てて守れて走れる」三拍子揃った野手(ハンサムなら言うことなし)や、時速100マイル(160Km)出せる火の玉投手(ハンサムなら言うことなし)を、お金のある限り集める。」

というもので、お金のある球団ほど有利と考えられていました。

もしそれが正しければ、年俸総額1位のお金持ち球団ニューヨーク・ヤンキースの1/3しか払えないメジャーリーグで最高峰の貧乏球団アスレチックスは、普通に考えれば最高峰の弱小球団であるはず。

しかしアスレチックスは先ほど述べたとおり、プレーオフの常連で、2002年にはMLB全30球団中最高勝率・最多勝利数を記録したことも(しかも20連勝というおまけ付き)ある強豪チームなんです。

ビリー・ビーンがお金がなくても勝てることを証明してくれたんだから、私たちもお金のある競合に勝てるチャンスが十分にあるってことです(ウチと皆さんを一緒にしてスミマセン)。

効果2 勝負の勝ち方がわかる 統計こそ最強の武器

さて、自由に年棒の高い選手を使えないビリーは、ピーター・ブランドが提唱するセイバーメトリクスと呼ばれる統計学に基づいた選手評価システムに共感します。

そして野球は「27アウト取られるまでになるだけ塁に出て得点を重ねるゲーム」と捉え、他球団は評価しないがその条件を満たした選手を探しました。

1) 打てなくても、じっくりフォアボールを選べる出塁率の良い選手。

2) 体重オーバーで早く走れなくても、長打でいっぺんに2つ3つ塁を進める選手。

最近一般的になったOPS(出塁率+長打率)を基準に、どのチームのスカウトも注目していない大学リーグや、MLBの下部リーグ、そして引退間近のベテランから安く買い集めたのです。

「出塁率100%のチームがあるとすれば 得点は無限大だ(本書より)」

つまりはそういうことなのです。

ビリーは一方で、虎の子の27アウトを失う可能性の高いプレーを監督と選手に禁じます。

1) 初球打ち(相手ピッチャーが楽になる。27アウトのうちになるだけたくさん投げさせて消耗させたい)

2) 送りバント(虎の子の27アウトをの一つを確実に失う)

3) 盗塁(一般に思われるより成功率が低い)

効果3 業界の慣習や常識にとらわれず、新しい視点から問題解決に取り組むことの重要性がわかる

出来上がったのは、スター選手が一人もいない、機動力ほぼゼロのチーム。

スポーツメディアからは散々笑いものにされましたし、監督はじめチーム内の反発もありましたが結果は最初にご紹介した通り。

ビリーは相手がいかにお金があって強そうでも、勝負の本質を見抜くことができれば勝機は十分にあることを証明しました。

効果4 イチローの偉大さがわかる

この本は2011年にブラッド・ピット主演監督で映画化もされています。

この映画の中でブラピ演じるビリーが、ガソリンスタンドかなんかのテレビで、試合で活躍中のイチロー(本物)をじっと見つめるシーンがあります。

つまり、イチローはビリーには絶対手に入らないものの象徴として登場しているんです。

実はビリー自身も、学生の頃、強打・好守・好走塁の三拍子どころか「ハンサム」まで含めて四拍子そろった、まるでイチローのようなタイプの選手でした。

しかしメジャーリーグではほとんど活躍できず、スカウトに転身してGMに登りつめます。

そんな彼が自分とは正反対のタイプの選手を集めて好成績を上げたというのも、面白いですね。

実際役に立ちました

『マネーボール』は、単なるスポーツ小説にとどまらず、データの力、革新、そして組織の変革といった普遍的なテーマを描いています。

貧乏球団が、データ分析という武器を手に入れることで、巨額の資金力を持つ強豪チームに打ち勝つという物語は、みなさまが迎えるさまざまな苦難を乗り越える際にとても参考になると思います。

私もビジネスの世界で、何回か「強そうな相手」と対峙せざるを得ない目に会いました。

そんなとき、この本の内容を思い出して「勝負の本質」を考え、なんとか危機を脱してきたと感謝しています。

映画 「マネーボール」もご紹介

ブラッド・ピット, ジョナ・ヒル, フィリップ・シーモア・ホフマン, ベネット・ミラー(監督), マイケル・ルイス(原作)

☆出てくる女性は、主人公と別れた奥さんと娘だけという男臭い映画です。